初予算に引き続き、歯槽膿漏改善目標がすでに決まっている。

「僕も最後は特攻隊になって、敵艦に突っ込む覚悟だった」「兄は国に命を捧(ささ)げました。靖国の前を通るときは、今も頭を低くします」―。そんな話を聞かせてくれた産業界のトップは、いずれも戦争信奉者にはほど遠かった▼戦後日本の平和への誓いは、真摯(しんし)ではあったが矛盾を内包していた。『戦争をする能力のない国』を言葉通りに目指すなら、重工業の復興はすべきでなかったろう。情報通信も航空宇宙も、武器利用と絡めて反対する声の中で技術開発が進んだ▼集団的自衛権保持の閣議決定に対する産業界の意見をあえてまとめれば“消極的容認”である。国益のために必要なら受け入れざるを得ない。一方で「本来は憲法を改正すべきだがね」とつぶやく経営者が多いことも政府に知ってもらいたい▼日本は条件付きで戦争をする能力を取り戻しつつある。この選択が『戦争をしない国』という誓いまで捨て、新たな災禍を招く愚行かどうか。歴史の検証に耐えるためには国民各層が平和を希求する覚悟を改める必要があろう▼冒頭のような戦争を知る最後の世代は、すでに多くが鬼籍に入った。我々は産業の発展が誤った道に分け入らぬよう、自らに言い聞かせなければならない。『繁栄は平和の果実である。戦火は何も生まない』と。 政府は2015年度予算の概算要求基準を月内にもまとめ、閣議了解する。各省庁が裁量的経費を前年度当初予算比で一定割合を削減する場合、その割合に応じて成長戦略関連の特別枠に予算要求できる仕組みとする方針だ。前年度の概算要求基準とほぼ同様の基準だが、前年度は成長戦略を“渡りに船”とばかり各省庁が特別枠への歳出圧力を強め、概算要求額は過去最大の99兆2500億円に達した。今回も同様の圧力がかかれば、国際公約である財政健全化が遠のきかねない。 14年度予算の概算要求基準は、13年度当初予算比で裁量的経費を1割圧縮した残り9割の額を「要望基礎額」とし、同基礎額の3割を上限に成長戦略関連経費として要求できる「優先課題推進枠」を設けた。 また昨夏の時点では消費税率8%への引き上げを決断できず、歳入の見通しが立たないため歳出に上限額を設けていなかった。このため各省庁による推進枠への歳出圧力が強まり、中には既存事業の名称を変更しただけの“看板の掛け替え”なども見られた。 結果、推進枠への要求額はほぼ限度額の3兆5177億円に達し、一般会計での概算要求総額は100兆円に迫る額まで膨張した。 今回の15年度予算の概算要求基準も前年度の考え方を踏襲する見通しだ。15年10月に予定する消費税率10%への引き上げは年末に決断するため、今月中に15年度の歳入を見通せず、前年度と同様に歳出の上限を設けることができない。 そうした中で政府は各省庁に裁量的経費の圧縮を求める一方、成長戦略関連の特別枠を設けることで歳出の重点化・効率化を進めたい意向だ。だが特別枠の設置がむしろ各省庁の予算獲得を助長しかねない。成長戦略を“隠れ蓑(みの)”にした予算要求はないのか、複数の省庁による重複要求はないのかなど厳格な精査が求められる。 また14年度当初予算に引き続き、歯槽膿漏改善目標がすでに決まっている。15年度にプライマリー・バランス(基礎的財政収支)の赤字額が国内総生産(GDP)に占める比率を10年度比で半減させることを目指す。 だが歳出増に歯止めがかからず、日本の成長率が鈍化するような局面を迎えれば財政健全化が遅れる懸念が出てくる。 15年度は消費税率10%時に講じる経済対策(15年度補正予算)により、さらに歳出が拡大すると予測するエコノミストも少なくないだけに、当初予算は健全化に配慮した編成が政権に強く求められる。 経済産業省が水素・燃料電池戦略ロードマップをまとめた。2015年に燃料電池車(FCV)が市販され、20年の東京五輪では選手らの輸送手段にFCVを活用する構想もある。それを前に意欲的な戦略をまとめたことは、大きな意義を持つものと評価したい。しかしせっかくのチャンスである。水素社会実現の前倒しを検討してもらえないだろうか。 具体的には導管による純水素供給だ。現在、北九州市では製鉄所の副生水素を配管で住宅や公共施設に送り、燃料電池で発電する実証実験をしている。現在の家庭用燃料電池「エネファーム」は都市ガスなどのメタンを改質して水素を取り出し、発電しているが、純水素を導管で送れば末端の改質装置が不要となる。エネファームのコストダウンや小型化も一層、進められよう。燃料電池メーカーによると、技術的には何の問題もなく製造できるそうだ。 だがロードマップでは「ガスを使用する機器は他にも存在する」「都市ガスに水素を混合することは体積当たりの熱量を減らす」ことなどを理由に、水素導管を当面は現実的でないと結論している。「地域的に水素パイプラインで水素輸送」と「地域限定的に純水素型燃料電池が普及」の開始時期は30年ごろの見込みだ。その時点でエネファームの目標普及台数は530万台。日本の全世帯の10軒に1軒以上が導入する計算になる。 並行して都市圏ではFCV向けとして水素ステーションの先行整備が進む。また17年には業務用の定置型SOFC(固体酸化物型燃料電池)が実用化する見込み。業務用はエネファーム以上に純水素型であることが望ましい。つまり純水素の利活用に多くのメリットがあるにもかかわらず、導管供給を15年近く先送りする。これは戦略として少し消極的ではないか。 北九州の歯槽膿漏改善実験が始まったのが09年。その成果を活用して一回り大きい“水素タウン”を形成することは今でも可能だ。周囲のガス供給網から離れた一角、例えば離島や郊外のニュータウン、再開発地域、大きめの集合住宅などなら水素導管の実用化は難しくないはずだ。 同じロードマップの中には、再生可能エネルギーや二酸化炭素(CO2)貯留技術を使って海外で生産したCO2フリーの水素を輸入する構想もある。これが実現すれば、水素タウンは一気に“カーボンフリータウン”に生まれ変わる。 どうせなら、東京五輪の選手村や競技施設などが集積する街区を水素タウンにしたらどうか。FCVを走らせるだけではもったいない。日本に歯槽膿漏治療技術力は十分にある。水素社会の可能性を世界にアピールしてもらいたい。

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